イスとコーヒー、そしてことばのろうそくたちと

横浜のCharan Paulin(チャラン・ポラン)にて開催中の「イスとコーヒー」展。

本日は、サウダージブックスの浅野卓夫 さんが この展示のために選んでくれた一冊の本の推薦文がとても美しく心に響くものでしたので、紹介させていただきます。どんな本なのかは、ぜひお手にとって確かめてみてください。

「イスとコーヒー、そしてことばのろうそくたちと」淺野卓夫(サウダージ・ブックス)

黄昏時、コーヒーを片手にイスにすわる。せわしない日常をきざむリズムとはちがう、ほうとするような時のふくらみにつつまれて、本のページをひらく。照明をすこし落とした部屋のなかで、テーブルにキャンドルの炎がゆらめいていたら、シチュエーションとしては最高だ。そんな、夜になる前のつかのまの読書には、詩がぴったりだとぼくは思う。

詩とろうそくは、どこか似ている。どちらもかぎられた文字数、かぎられた長さのなかで、凝縮されたメッセージやエネルギーを、ぼくらに伝えてくれるから。ページにぽつりぽつりとまっすぐにたつ詩の行は、何本ものろうそく。誰にも聞かれないぐらいちいさな声に出して詩を読むことで、ことばにぽっとまあたらしい意味の火が灯され、ゆらめくイマジネーションの炎が、耳をすませる自分のこころの暗がりをしずかに照らしだす。

『ろうそくの炎がささやく言葉』という一冊の美しい青い本を、いま、ぼくは多くのひとに読んでもらいたいと願っている。詩人の谷川俊太郎さんはじめ 31人の書き手が、2011年3月11日以降の日々のなかで語ることばを失いつつも、東北の地の夜をおもって必死につむぎだした作品のアンソロジーだ。ろうそくの炎が祈りのためにあるなら、詩のことばもきっと同じだろう。

わたしは おぼえています

いっしょに あるいた

ともだちの えがお

ときどき あたまを なでた

こいぬの くろい め

(ぱくきょんみ「このまちで」)

イスとコーヒー、そしてことばのろうそくたちとともにある、読書の時間。そこでは、ぼくらが日々を生きるために忘れなければならなかった小さなものごとが、記憶のふかいところから奇蹟のようによみがえるのを感じるはず。ていねいに淹れた一杯のコーヒーが一日につかれたからだをあたためてくれるように、詩のことばは、忘れてはならない思い出のぬくもりによって、ぼくらの魂をそっとあたためてくれるのだ。

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浅野さん、良い本を紹介してくださりどうもありがとう!
チャラン・ポランに足を運んでいただいた皆さんに、この温かいことばが響きますように。
そしてチャラン・ポランでお過ごしいただくひと時が、皆さんの心をほぐす憩いの時間となりますように。


2011 年 11 月 24 日 | ARAHABAKI 通信, つぶやき | ツイートする